京都に新しい都市インフラとしてオープンした宿泊施設「9h(ナインアワーズ)」。
都市の新たなインフラ=トランジット・ステイを提示し、宿泊という概念を、眠りの拠点を持つという軽やかな発想へ昇華させている。今回は、新しいビジネスパーソンに向けた"スリーピング・ハブ"を提唱した新しいホテルについて、その理念や将来についてプロデューサーである株式会社キュービック代表取締役の油井啓祐 氏に話を伺った。
都市の新たなインフラ=トランジット・ステイ
- 施設の名前にもなっている 9hは、1h=Shower + 7h=Sleep + 1h=Rest と3つのカテゴリに分類されパッケージサービスをされています。 通常のカプセルホテルであれば一括りにされてしまう時間の概念、何故このような3つのカテゴリを敢えて示したのでしょうか?
Keisuke Yui: ナインアワーズを開発するにあたり、カプセルホテルでもホテルでもない、誰でもが短時間快適に滞在できる「都市の寝床」という独自のカテゴリーを創造したいと考えました。
その実現に向け「部屋と言う空間概念を捨て、滞在に必要十分な機能にフォーカスをあてる」ということを基本的な考え方に据えました。 ナインアワーズにとって滞在中の時間は機能であり、機能のクオリティを追求することでお客様一人一人の生産的な活動に結びつくことを願っております。
- 9hは建築家ではなく、プロダクトデザイナーにクリエイティブ・ディレクションをお願いしたと聞きました。この経緯や背景にはどんなコンセプトがあったのでしょうか?
Keisuke Yui:表面的な造形ではなく、ビジネスそのものをデザインの対象にすることを強く希望しましたので、建築家という選択肢はありませんでした。 ナインアワーズはシステムであって物理的な建築物だけではないので、柴田文江さんにお願いすることに致しました。もし、もう一度ゼロから世界中のデザイナーの中で誰かにお願いするとしても、柴田さんを選ぶと思います。
- 余計な標識がなくピクトグラムが至る所に配置されているのを見て、あるべき未来空間が拡がっている感覚に陥りました。
このピクトグラムで施設内を誘導する方法はどのような狙いがあるのでしょうか?
Keisuke Yui:ナインアワーズはシステムであり、機能そのものであるので、装飾的な要素は一切必要としておりません。いまは確かに目新しいかもしれませんが、私共は都市の新たなインフラを目指して設計しましたので、どの言語圏のお客様でもピクトグラムを見て一目で機能を認識できることを考えました。
- 接客態度として「丁寧にしなくていい、親切にしなさい」という言葉をおっしゃっていましたが、これはどういった思いが込もっているのでしょうか?
Keisuke Yui:過去に何度か、世界で一流と言うべき「おもてなし」の実態を直接伺う機会がありました。それらは、世間一般で安易に表現される「おもてなし」とはまったく別次元であると痛切に感じます。ましてや、ナインアワーズは社会のインフラとして機能にフォーカスをあてることを考えて作りましたので、中途半端なおもてなしは必要ないし、万人に対して平等・公平なサービスの在り方を追求すべきであると思っております。こうした考えに沿って、ナインアワーズでは、「清潔」「親切」「挨拶」の3つだけを徹底するのを運営ルールにしました。 耳触りのよいことやうわべの接客技術ではなく、24時間、館内隅々の清潔さを保つべく掃除に汗を流し、誰に対しても挨拶をハッキリし、少しでもお困りのことがあれば求められる前に手を差し伸べることがナインアワーズのサービスの基本であると考えております。
- 寝室環境システムが入っていると聞きましたが、カプセルホテルとして重要な眠りの設備にこだわりなど教えて下さい。
Keisuke Yui:機能にフォーカスをあてましたので、眠りの品質は極めて重要です。 このため、パナソニック電工の寝室環境システム(光で入眠・起床を促すシステム)や、東洋紡・パナソニック電光のマットレス(高放湿性・高反発力)、キタムラの6分割オーバル枕、ラグジュアリーホテルと同じ番手水準のシーツ、羽毛布団など、全ての素材に徹底的にこだわりました。
本当の豊かさとは?
都市生活 宿泊から考えてみる。
- 9hを語る上で重要なキーワードである、「ショートステイ、トランジット」。
9hが目指すべき、現代ビジネスマンのホテルはどのようなものだと考えますか?
Keisuke Yui:ビジネスマンに限らず、本当の豊かさとは何か、ということではないでしょうか。 たまには無理をして老舗の旅館やラグジュアリーホテルに泊まってみることが自分の価値基準を広げることにつながると思いますし、ナインアワーズに泊まって時間を有効化し、街そのものをとことん楽しむこともまた、生産的な活動であると思います。
- 都会では、シェアオフィスや複数の仕事場所持つノマドワーカーが増加しています。このようなノマドワーカー的発想と9hのサービスは非常に親和性が高いと思います。 仮にノマドワーカーが今後増加し続けるとしたら、起きてから寝るまで大きな生活変化が訪れるかもしれません。油井さんが考える未来のシティ・ライフサイクルとはどのような形なのでしょうか?またはなって欲しいと考えますか?
Keisuke Yui:生物としての人間が不連続の変化をすることはないと思いますが、社会のシステムは不連続的変化の段階にあると受け止めています。従い、受動的に時間を消費するのではなく、能動的に時間を生産する、生産活動のために時間を有効化する、という意識を持つ人は増えていくのではないでしょうか?日常生活の中にナインアワーズと言う道具を持ち込むことで、いままで以上に生産的な活動が出来るようになるとしたら、それこそが私共が望んでいることです。生産の対象が遊びであっても仕事であってもよいと思います。
- 今後の展開予定を教えて下さい。
Keisuke Yui:東京での展開を希望しております。 同時に、サービスパッケージとして欧州へ輸出することにも挑戦したいと考えております。
国境を超えられるであろう日本の価値
「デザイン」「ホスピタリティ」
- 油井さんがキュービックの代表となり、様々な変革を起こしてきました。
様々なチャレンジを行なうきっかけやモチベーションの理由を教えて下さい。
現在の活動に突き動かすものは何でしょうか?
Keisuke Yui:これまでの活動はすべて、意図したものではなく結果としてそうなっただけでありますので、人様に語れることはありません。 ただ、ナインアワーズ事業を本格的に考え始めた2005年から、3つの原則を設けております。
1.オリジナルであること(何にも似ていない、独自のカテゴリーを創造する)
2.グローバルであること(日本から世界に輸出する)
3.社会利益に適うこと(新たなインフラ足り得る、資本の重複は望まず)
- 前述された3つの原則にとても共感します。 今、日本が進むべき道として、どのような方向性・可能性があると油井さんは考えますか?宜しければ資本主義経済についての見解もお聞かせて下さい。
Keisuke Yui:日本を1つの会社だと仮定した時、無駄な経費に目くじらを立てて削減することも重要かもしれませんが、そんなことよりも先に、どうやって売上を上げるかを考えて実行すべきだと思います。
この先10年、20年というスパンで考えると、生産技術を輸出して売り上げを上げるという従前の図式は構造的に続かないと思います。では、日本が世界から認められているものは何か。向こうから買いに来てくれるほど価値のあるものは何か。それを発見して適正な価格で販売することにしか、活路はないと思います。なお、私達は、国境を超えられるであろう日本の価値として「デザイン」と「ホスピタリティ」をとり上げています。ナインアワーズはこの2つを独自にパッケージ化したシステムです。 資本主義経済に対して、大局的には何ら疑いを抱いておりません。理念だけでは真の豊かさとは言えないし(利益だけでも真に豊かではありませんが)、結果の平等ではなく機会の平等を是と考えております。
- このようなコンセプチャルな事業展開をなされている背景として油井さん自身の過去の文脈の中で大きく影響を与えている事柄・出来事を教えて下さい。
Keisuke Yui:計画したわけでは全くなく、自然な成り行きで現在に至っております。 ですので、この事業に何が影響しているのかは、考えたことがありません。また、ナインアワーズは私の中から生まれたものではありますが、私の従属物ではなく、一個の人格を有した存在であると考えております。
- 9hはプロダクトとしても施設としてもグラフィックとしても素晴らしいブランディングがされていると思います。それは、インターフェィスデザイン以外にもスキームデザインであり、セオリーデザインであり、ブランディングを構築するトータルデザインが素晴らしい事に起因すると思います。 油井さん自身は(広義的な)デザインの可能性をどのように感じていますか?
Keisuke Yui:ナインアワーズの開発において「事業そのものをデザインする」と決めて始めましたが、世界でそれを成し得ているのはアップルだけではないかと考えています。
「開発、生産、販売、顧客」というサイクルのすべてがデザインの対象であり、表面的な造形デザインというのはプロセスのごく一部にすぎないと思います。
- 最後に、9hのお客さん、これから9hに出会う方々にメッセージをお願いできますか?
Keisuke Yui:全ての方にとっての「都市の寝床」になりたいと願っています。 何も特別なことはないけれど、ナインアワーズ
があることで便利になった、生産的になった、安心して使える、と思って頂けるような「道具」を目指します。
9h [nine hours]
住所: 京都府下京区寺町通四条下ル貞安前之町588
HP: http://9hours.jp
営業時間: 24時間
定休日: なし
TEL: 075-353-9005
具体的に、次代のクリエイティブに必要だと考える4つのテーマ・視点であらゆる活動・情報を発信していきます。
1、今を蠢くアート・デザイン情報 - ART&DESIGN
世界中のアート・デザインシーン、特に日が当たっていない分野や、今まさにインディペンデントで蠢いているクリエーションにフィーチャーしてニュースとして届けています。
2、次の時代を形成していくビジネスニュース - BUSINESS
お金について語るにはとても難しいものですが、人間の肉体を流れる血のように、社会を循環し、エネルギーを供給します。ビジネス的な観点で、プロジェクト システムを学ぶことは、非常に大事なことだと考えています。ここでは、広告を始め、経済効果や収益などといった視点でニュースを届けています。
3、私たちの価値観を反映するカルチャーニュース - CULTURE
日本が誇るべき一つにコンテンツ力が挙げられます。その中でも、文化は私たちの価値観を反映するものとして世界に誇るものとなる筈です。こうした、カルチャーにスポットを当ててニュースを届けています。
4、社会との関わり考えるデザインニュース - SOCIAL DESIGN
クリエーターのみならず多くの人類が、俯瞰した視点で地球を考えなければならない時代です。持続可能なクリエーションやシステムを考えることは、社会を牽引する人 間にとって、とても大事な考え方です。
ファウンダー佐々木氏に質問
設立動機を教えてください。
最初の動機は人に言える程、高尚なものではなく、自身が良いと思えるものを人に知らせたいという言ってみればエゴから
スタートしました。 しかし、人生と同じように、現在では自らの活動の意義や責任というものが芽生えています。
仕事や人生で、大切にしていることを教えてください。
自分に素直に生きること。 何人の人を幸せにしたかが自らの存在する指針であること。
HITSPAPERの今後のビジョンを教えてください。
各業界の構造を溶かす為、化学変化が起こるような仕掛けを仕組んで、ヒエラルキー構造をよりフラットに、情報、お金、価値観の循環を変える試みです。そして、その溶けた中から新たなクリエイティブ・クラス、価値観を産み出します。